今、世界的な気候変動に関する議論や気候変動レジリエンス および気候変動に対する取り組みへの注目が高まっています。多くの業界の専門家がこの分野をESG(環境・社会・ガバナンス)や温室効果ガス排出量の視点から見ているのに対し、私たちは世界をレジリエンス(対応力・回復力)の視点から見ています。ここで言うレジリエンスは、気候変動による甚大な影響から地球上の人々や環境を守るためのレジリエンスを指します。One Concernは2015年に創業して以来、この問題に取り組み続けています。企業や国が長期的なレジリエンスを構築するにあたって、レジリエンスは、サステナビリティの管理手法や金融と保険が果たす役割の再構築という経済的な機会をもたらします。このような考えを持っているのは私たちだけではありません。

私たちのパートナーであるSOMPOホールディングスは、One Concernと連携し、レジリエンスソリューションのグローバル市場を開拓するために、1億ドル以上の資金をコミットしています。また、他の大手グローバル企業も同じようにレジリエンスの分野に期待しています。私たちは、事象が起こってから反応・対応することから、事象が「災害」になる前に予測・予防することへシフトしていく必要があります。AIや機械学習技術、大量のデータを使ってあらゆる災害による被害を最小化することが私たちの使命であり、それは、世界のデジタルツインを作ることでもあります。

この市場で私たちが見てきたことについて、顧客インサイト世界的なインフラ投資の不足交差するレジリエンスとサステナビリティという3つのテーマにフォーカスして説明したいと思います。

顧客インサイト:経営会議における4つのC

最近、80社を超える企業と意見交換をする機会がありました。そのほとんどが「Fortune 500」に名を連ねるグローバル企業で、金融、製造、物流、輸送、エネルギー、コンサルタントなどあらゆる業界に及んでいます。主な議論のテーマは「最近一番気がかりなことは何か」というものでした。

レジリエンスに関する議論の中で得られた4つの重要なインサイトをご紹介します。

1.サイバーリスクおよび社会不安はカバーされているが、気候変動と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクについては?

  話を聞いた取締役や経営幹部のほとんどが、サイバーリスクを管理し、従業員を社会不安から守るためのツールやリソースはあるが、気候変動や新型コロナなどのパンデミックのリスクに対する備えは十分ではないと話していました。また、話を聞いた企業の多くはネットゼロやカーボンニュートラルへのコミットを表明してはいるものの、その取り組みを管理する方法や今後かかる費用についての明確な見通しが立っていないことを内々に認めています。そういった企業は、コンサルティング会社の力に頼っています。

2.最も気がかりなことは従業員の安全

  パンデミックによって一変した世界で、大企業が最も懸念しているのは従業員の安全です。昨年からの在宅勤務やリモートワークといったバーチャル・ワークフォースへの大幅な転換は、勤務場所にかかわらず、従業員の安全を確保したいという雇用主の意向の表明でもありました。

3.レジリエンスに投資するリソースとモチベーションを有しているのは大企業

  金融規制当局からの規制圧力や、株主によるESGに対する圧力の高まり、レピュテーションリスクなど、その理由が何であれ、大企業は利益を維持するためのレジリエントなソリューションに先陣を切って投資していくことに前向きです。そのような投資は最終的にはその企業の売上を伸ばすことにも寄与すると考えられます。

4.「建物の外部」の未知のリスクへの対処は?

  新型コロナによって、企業がこれまで脅威と考えていなかった脆弱性が明らかになりました。当然ながらそういった未知の脆弱性は、レジリエンスのプランニングには組み込まれていなかったわけです。特に企業は、パンデミックなどの未知のリスクによって、売上の減少やサプライチェーンの寸断、従業員の離職など、事業が受ける波及的な影響に対する準備ができていませんでした。このような「建物の外部」の未知のリスクがあるからこそ、企業はサプライチェーンの再構築や、電力供給を維持するための自前のマイクログリッドソリューションへの投資、そして公共インフラを改善するための官民連携の機会を模索しています。

世界的なインフラ投資資金の不足

多くの企業はこれまで、気候変動に対応するためのレジリエントなインフラの開発や災害後の復旧については、政府主導で行われることを期待してきました。

しかし現状、米国政府を含む各国の政府が広範なインフラ整備のニーズに対応するためのリソースが不足している問題があります。つまり、企業が依存している道路や橋、電力網、通信ネットワークなどは、業務を遂行するにあたって必要な信頼性基準を常に満たすことが難しくなるということです。

それゆえ、バイデン政権が2020年に発表した気候変動に対処するための2兆ドルのインフラ投資計画は極めて重要です。この提案は意欲的過ぎるという意見もありますが、米国土木学会(ASCE)は、これは5.6兆ドルに上ると試算される米国におけるインフラ投資資金の不足に対処するための第一歩に過ぎないと言っています。2021年2月上旬に米国テキサス州を襲った大寒波を例に挙げてみると、ビジネスとインフラに及ぼした影響は2,000億ドルを超えると予測されており、インフラの問題で亡くなられた方は111名に上りました。

世界的にはインフラ投資資金は15兆ドル不足していると言われています。既存のインフラが気候変動に伴う脅威や破壊、衰退などに対して脆弱な状態が続く中、この資金不足は日に日に深刻化しています。

これは、民間企業が政府と連携することで改善できる余地があります。ただし、民間企業が関与するには、相応のインセンティブが必要です。気候変動リスクやハザードリスクを正確に評価できれば、適切なリスクのプライシングができます。米国証券取引委員会(SEC)が2010年に発表した気候変動に関する開示基準の指針を更新するにあたりパブリックコメントを募集したのもこのためです。ESGは市場行動において重要な役割を果たしますが、基準がないことや、行動よりもコンプライアンスを推進するものであることから、十分な効果が得られていません。私たちは、企業や政府、投資家が単にESGに対する株主の意見に従うだけでなく、レジリエンスに投資することが奨励されるように、ESGにレジリエンスの「R」を追加する役割があると考えています。

交差するレジリエンスとサステナビリティ

私たちは、建物を「ノード」、建物をつなぐインフラを「エッジ」に置き換えて、世界をグラフデータベースとして捉えています。このようにして、米国や日本においてデジタルツインを構築しています。異常気象でノードまたはエッジが切断されると、ドミノ効果が発生します。今年初めにテキサス州で発生した「予測不可能」な大寒波による送電網の凍結がまさにそれです。テキサス州は過去にも同様の寒波を経験していましたが、連鎖的に広がる影響を防ぐためのレジリエンスに対する投資が行われていませんでした。

このような物理的リスクと移行リスク、あるいはレジリエンスとサステナビリティをつなぐ領域にOne Concernは最も関心を持っています。当社は「ゼロ/ゼロ」の観点から考えています。つまり、レジリエンスに投資することによってリスクをゼロに近づけると同時に、カーボンゼロに向けた取り組みを推進するということです。

米国の送電網の大半が石炭または天然ガスによる発電を継続していることを考慮すると、低炭素型のマイクログリッドソリューションに投資して、電力を維持し、工場を稼動させ、売上を上げていくことは理にかなっています。

2030年までに温室効果ガス排出量を半減させるというバイデン政権の公約によって、可及的速やかにリスクゼロと排出量ゼロを達成することを目的とした再生可能エネルギーへの投資が大幅に増えることが推測されます。

問題はどのような優先順位で投資していくかということです。そこで登場するのがAIとデータです。AIとデジタルツインを活用すれば、無数のシナリオを実行して、企業や保険会社の業務リスクまたは投資家の予想最大損失額を判断できます。それによって、企業は事業中断の可能性を減らし、より適切に保険の補償範囲を検討できます。また、投資家は気候リスクに対する理解を深めることができるため、より良い投資が行えます。

最後に

どんな活気のある市場でも、勝者と敗者、革新者と模倣者、成功者と懐疑論者が混在しています。One Concernを築いてきた6年で学んだことの一つは、レジリエンスへの投資はビジネス上、有益であるという考えを持ち続けることです。気候変動の影響で毎年何十億ドルものコストが発生する中、経済、市場、および規制の追い風が私たちに有利に働くと考えています。

サステナビリティ市場は50年先行していますが、レジリエンス経済の台頭が始まり、最終的にはバッテリーや再生可能エネルギー、水素、電気輸送など、今日見られる市場機会を上回っていくことが予想されます。

市場リーダーは一夜では生まれるものではありません。将来、何が私たちを待ち受けているかを考えると期待が膨らみます。今後のOne Concernの取り組みにご期待ください。