共同創業者兼最高経営責任者(CEO)アマッド・ワニ

概要

米証券取引委員会(SEC)の気候リスク開示に関する規則が最終的にどうなるか、上場企業がはっきりと分かるようになるには年末を待たなければなりません。しかし、おそらく規則の原案が今後SECの当初の目的と全く異なるものに変わるということはなく、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の開示推奨項目に倣ったものになるでしょう。物理的な気候リスクについて、SECは企業による投資家への開示を2024年から強化し、気候関連リスクが自社の事業や財務諸表に与える、もしくは与え得る重要な影響を開示するよう求めます。また、企業はこれらのリスクが自社の戦略、ビジネスモデル、将来予測にどのような影響を与えるか、もしくは与え得るかについても開示を求められることになります。

規則原案では、洪水や竜巻、ハリケーンといった短期的な気候関連事象と、気温上昇や海面上昇、干ばつといった長期的な気象パターンの両方について、業績に与える物理的影響を明らかにするよう、企業に求めています。潜在的リスクを明らかにすることで、企業はキャッシュフローの悪化や、リスク緩和に関連する損失引当金支出、資本化費用の増加、そして気候関連の機会を予測できます。

これらの規則が施行されれば、各々が自主的に作成した断片的で統一性に欠けるESG報告ガイダンスは不要になり、ステークホルダーが組織の気候関連リスクを明確に捉えられるようになります。

One ConcernはSECに賛同しています。組織は、気候リスクをどのように考え自社の事業戦略に織り込んでいくか、その方法を根本的に変えなければなりません。

 

依存リスクを加味した物理的気候リスクが必要

気候リスクを建物への物理的損害という観点だけから測定したのでは、その全体像を知ることはできません。異常気象や気候変動は、電力網や交通網、従業員のアクセスなどのビジネスインフラも遮断します。ビジネスインフラの遮断は、依存リスクの一つです。インフラの被害による金銭的損失が発生すると、組織の事業可能性、従業員、顧客、サプライチェーン、ひいては事業を継続し安定したキャッシュフローを生み出す能力にも影響します。

2001年に米国で気象が原因で起きた停電の数は、2021年より一桁下回っていました。米エネルギー省によれば、2001年は47日の電力のダウンタイムを起こした気候関連事象が1回あっただけなのに対し、20年後の2021年には、複数の異常気象に関連し156回の停電が起きています。2021年にテキサス州で起こった大規模停電では、13日間の停電で230億ドルに上る損失が生じ、依存リスクが引き起こす影響に企業の事業活動がいかに弱いかが浮き彫りになりました。

 

物理的気候リスクの測定

現在、災害リスクのモデリングを提供する企業では、リスクを一次元的に捉えることに重点を置いています。そこでは事業への全体的な影響ではなく、建物がハザードで損壊した場合の修繕費という観点で気候リスクが測定されます。

これに対しOne Concernが開発した新たなリスク指標が、One Concern Downtime Statistic™(ダウンタイム・スタティスティクス)(1CDS™)です。1CDSは、洪水、強風、地震といった災害が引き起こすダウンタイムの規模を測定することで、物理的気候リスクを評価します。例えば、企業の施設が直撃を受けた場合や3マイル離れた変電所が被災した場合、100マイル離れたサプライヤが港の機能停止により途絶した場合に、企業活動の中断がどの程度続く可能性があるかを測定します。

1CDSは、直接的な損害と間接的な依存の両方に起因するビジネスダウンタイムを統計学に基づいて測定し、ダウンタイムによる企業の金銭的損失も評価します。さらにこれは、こうしたリスクを許容するか否かに関する分析、開示、モニタリング、評価のためのベンチマークとしても機能します。

 

1CDSの技術的基盤

1CDSに先立ってOne Concernでは、米国の自然環境と人口環境のデジタルツインとしてOne Concern Domino™を開発しました。これがダウンタイム・スタティスティクスの技術的基盤となっています。このデジタルツインが完成するまで、あらゆる電柱、変電所、港、空港、道路、高速道路、橋を含む米国のインフラが、オフィスや工場のような事業拠点とどのようにつながっているかを視覚的に再現したものはありませんでした。そこで、One Concernは教師データ(Ground Truth)と機械学習を組み合わせ、米国のインフラの合成デジタルツインを構築しました。

ダウンタイム・スタティスティクスの基礎にあるのは、One Concernの高度なリスク可視化技術です。このデジタルツインは、任意の建物の半径30マイル内にあるオペレーションを支えるライフラインをマッピングします。これにより、物理的リスク、依存リスク、金銭的リスクを予測することが可能です。


物理的気候リスクの特定、測定、報告

One Concernは、気候変動や自然災害、異常気象が事業用拠点へ直接的影響を与える構造的リスクに加え、拠点が事業活動を維持するために依存しているネットワークの把握を支援します。摂氏1.8度の気温上昇シナリオに基づく気候変動影響を始め、様々なハザードや再現期間ごとにダウンタイムを特定します。SEC開示に向けて自社の物理的リスクを測定されたいとお考えの皆様にとって、One Concern Dominoはその一助となるでしょう。